GUST NOTCH? DIARY

ゼビウスの音楽の作曲者

書くことがない時はゼビウスネタで行くことにしよう。
ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック
で、表題の件。「ゼビウスの音楽を作曲したのは細野晴臣である」と思っている人がまだ結構いるらしい。これは間違いである。
実際の作曲者は当時のナムコ社員である慶野由利子さん*1だ。世界初のゲーム音楽アルバムである「ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」のクレジットを見ても「作曲 慶野由利子/編曲 細野晴臣」とちゃんと書いてある。
スーパーゼビウス
さて、何故このような間違いが広く流布されてしまったかというと、答えは簡単だ。
ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」において細野さんは監修(要はプロデュース)と編曲としてかかわっていた。M-1:XEVIOUS の冒頭の部分こそ実際のプレイ音を収録したものであるが、途中からは実音のサンプリングを用いたアレンジが施されている。
さらに、「スーパーゼビウス」においてはプロデュースと編曲のみならず、演奏も行っている。この12インチシングルは、ただ単にゲーム音を録音したものではなくなっており、現在のゲームミュージックアルバムにおいてアレンジ版が収録されることの原点となったものだ。ジャケットの裏のクレジットはこうだ。

ORIGINAL GAME MUSIC BY
NAMCO
(YURIKO KEINO)

(※途中省略)

ALL MUSIC ARRANGED AND PERFORMED
BY HOCHONO

"XEVIOUS" DISCO WRITTEN BY
HARRY H

「HOCHONO」というのも「HARRY H」というのも細野さんのことである。注目すべきは「"XEVIOUS" DISCO WRITTEN BY HARRY H」のところだ。そう、原曲は慶野由利子さんの作曲であるが、いわゆる「スーパー・ゼビウス」という曲については細野さんの作曲ということになるのだ。実際、ゲームにはないベースやSEが追加されており、音自体もサンプリングではなくなっている。残っているのは冒頭のスタートミュージック、全体を支えるBGMのフレーズ(音色はオリジナルと全く異なる)があるのと、実音を模したいくつかのSEだけ。あくまでもゼビウスサウンドをモチーフとして新しく構成された曲なのだ。そして、実際に細野さんが演奏している様子はYouTubeで見られる。なんともいい時代だ。

結局、このあたりのことが正しく理解されていなくて、「ゼビウスの音楽を作曲したのは細野さん」ということになってしまっていると予想される。特にリアルタイム世代ではなかった人に多いようだ。また、リアルタイム世代にとっては、帯に「細野晴臣」の名前があったことが誤解を生む元になったと考えられる。
まとめよう。

  • ゼビウスの音楽、すなわち、ゲームスタートミュージック、BGM、そして効果音を含むすべての楽曲を作曲したのは、当時のナムコサウンドスタッフであった慶野由利子さんである。ゲームのBGMなどについて言及する場合は、慶野さんの作曲というのが正しい。
  • 楽曲としての「スーパー・ゼビウス」(および、そのRemix)は、細野さんの作品である。リミックスされた曲についていう場合は、細野さんが作ったと言っても間違いではない。ただし、あくまでも、ゲームの音楽を素材にしてアレンジしたものだ。

細野さんが「ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」に関わることになった理由は、当時ゼビウスにのめりこんでいたから*2。音楽業界ではゼビウスが流行っていたらしく、細野さんだけでなくサザンの桑田圭祐なども「ゼビ本」*3を持っていたという話もある*4。細野さんはわざわざナムコまで見学に行ったそうで、そこでビデオゲーム音楽のレコード化の話になったという*5

ちなみに、「ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」中、「ゼビウス」「ギャラガ」「マッピー」「リブル・ラブル」においては遠藤雅伸氏も"演奏"に参加している。*6
また、「スーパーゼビウス」中の声は,録音時にスタジオにいた遠藤雅伸氏,大野木宣幸氏,小沢純子氏が担当しているそうだ。ラストの拍手はYMO散開コンサートの音源を使っているらしい。*7
ザ・リターン・オブ・ビデオ・ゲーム・ミュージック
ついでに言及すれば、その後に発売された「ザ・リターン・オブ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」には細野さんはかかわっていない。また前二作と異なり、YENレーベルからの発売でもない。ただし、YEN出身で「たらこ・たらこ・たらこ (通常盤)」で一般にも名が知れることとなった上野耕路氏が編曲などでかかわっている。個人的には、このアルバムに収録されている「MECHANISM OF VISION -NINO ROTAの自画像(JERRY GOLDSMITHもそこにいる。)-」は名曲であると思っている。

*1:遠藤雅伸氏とは同期入社。「スーパーゼビウス」のライナーノーツより。なお、「スーパーゼビウス」のライナーノーツの内容は、2chの「ゼビウスを懐かしむ」スレの内容をまとめたもの。慶野さんは、現在は「オフィス・サウンド・ポット」のマネージャをされているらしい。肩書きとしては音楽プロデューサーである。http://www.kokoo.com/index.html」に関係されているようだ。

*2:YMOの散開コンサートのパンフレット「CHAOS」中には、「好きなゲームはゼビウス」と書かれたメモの写真が載っていたと記憶している。

*3:ゼビウス1000万点への解法」。うる星あんず氏、中金直彦氏により作成された攻略本同人誌。のちに田尻智氏による「ゲームフリーク Vol.2」として流布し、多くのコピーも広まったという。「ゲームフリーク」に関する経緯は田尻氏による当時の回顧エッセイ「パックランドでつかまえて―テレビゲームの青春物語 (ファミ通Books)」などでも触れられている。

*4:ナムコミュージアムVOL.2超研究 (じゅげむBOOKS)」より。元記事は、雑誌「LOGIN」1984年1月号。

*5:スーパーゼビウス」のライナーノーツより。

*6:マイコンベーシックマガジン1984年5月号付録のスーパーソフトマガジンより

*7:スーパーゼビウス」のライナーノーツより。