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サムスン式国際戦略: サムスン躍進の原動力 / 石田賢 (asin:4830948094)

サムスン式国際戦略
会社の本。

  • サムスン電子は、二〇〇〇年以降のデジタル時代の到来を先読みして、単なる「モノづくり」の世界から脱皮し、製品の品質は当たり前としながら、デザイン・ソフトウェア開発に軸足を移し、グローバルブランドの一流化と「モノづくり」との融合を目指してきた。
  • では、二〇〇〇年以降、日本企業に何が起こっていたのだろうか。これは誰もが知るように、三つの大きな変化が起こっていた。一つ目はグローバル化、二つ目は中国、アジアの台頭と新興国市場の拡大、三つ目はデジタル化(コモディティ化)である。
  • (シャープにとって)致命的であったのは、急速に変化するデジタル化時代に素早く対応できなかったことであろう。
  • デジタル化は、部品・素材と製造装置を組合わせれば、世界のどこでもほぼ同品質の製品を生産することができる。「モノづくり」に固執して差別化できない製品であれば、世界中どこでも低コストで同じような品質の製品を生産できるため、あっという間に価格競争に巻き込まれてしまう。
  • サムスンの経営理念は、「事業報国」「合理追求」そして「人材第一」である。
  • とりわけサムスングループの新人社員教育は、一言でいえば体験式である。日本企業の新入社員教育が講義中心であるのと好対照を成している。
  • サムスンに入社するには、その前提条件としてTOEIC九〇〇点以上(ただし、デザイナーソフト開発関係は七六〇点以上)である。
  • ちなみに、二〇一二年のサムスン新人社員のTOEIC平均点は八四一点であった。
  • 新興国に精通した地域専門家の活躍は目覚しく、現地化製品の開発からマーケティング戦略の立案まで幅広い。具体例を挙げると、インド市場では、インド人のパーティと音楽を楽しむライフスタイルを考慮して、サウンドを大幅に強化したLCD TVが成功し、洗濯機を保管場所から移動して使うことから、洗濯機にキャスターと取っ手をつけた。またアフリカ市場では、慢性的な電力の不安定に備えて、主力モデルの三二インチLCD TV、LED TVに瞬間的な電圧変化に耐えられるように、耐圧機能の強化した製品を販売した。
  • サムスンの驚異的な成長は、「モノづくり」「ヒトづくり」「組織づくり」「ブランドづくり」「危機意識づくり」など、それらを有機的に融合したところに強さがある。その根幹にはサムスンのグローバル情報の収集・分析力がある。
  • なおサムスンが求めているデザイナーというのは、デザインを専攻したものではなく、新しいものを創造するには、心理学、哲学、音楽、経営学、経済学など文科系出身者の複合的な思考も兼ね備えている人材である。
  • 日韓共通のダメリーダーの条件
    • 現場を歩かない、知らない
    • 人間に対する理解が足りない、理解する気がない
    • ビジョンや夢を語らない、語れない
    • 意思決定が遅い、他人任せ
    • 取り巻きにイエスマンが多い
    • マイナス情報を無視する
    • 広報しない、説明しない
    • 社外の声に耳を傾けない
    • 公私を混同する(金銭・便益)
    • 権力と権威を混同する
  • わが国の企業組織は、事業部間の敷居が高く、隣の事業部に大方無関心である。ここから変えていかなければ、全社としての求心力さらには戦略も生まれない。全社一丸となってグローバル競争に挑まなければ鳴らないこの時代、事業部間で国内のわずかな成長領域を奪い合っている姿は、県境さえ越えられない企業がグローバル化を叫んでいるようなものである。
  • サムスン電子は二年周期で基本デザインを見直している。最初の一年で現地の流行を分析して商品化戦略を計画し、二年目に産業および技術トレンドを勘案して新しいデザインを作る。
  • この結果TV部門では、アフリカ地域内のサムスン電子のシェアは四〇%を越すまでに上昇している。
  • サムスン電子は二〇一一年一一月に創意開発研究所制度を導入した。創意開発研究所制度は、役職員が多様なアイディアを提案し、その提案が選ばれれば、既存の業務から離れて、自身のアイディアを具体化するタスクフォースチーム(TFチーム)の一員として活動が出来るようにする制度である。
  • この制度は、建設的な失敗を容認する組織文化を定着させる狙いがあるといわれている。
  • サムスン電子躍進の要因を注意深く観察してみると、グローバル化の中でごく当たり前の対応をしてきただけであり、一方の日本企業は、いつの間にか組織が硬直化し、社長はサラリーマン化し、誰が考えても当たり前の意思決定が稟議制度のため、いつまで経っても決められない先送り体質になってしまった。
  • 基礎研究を自社でやらないという意味は、全く基礎研究を蔑ろにしているという意味ではなく、基礎研究に時間とコストを掛けないということである。製品化が見えないような基礎研究には、時間とコストが掛かりすぎ、そこに価値を見出していない。世界的に重要と思われ、かつ商品化まで見通せない基礎研究には、大学研究室への委託・共同研究などで対応している。
  • 二〇一二年の新年の挨拶で李健煕会長は”今サムスンを代表する多くの製品が一〇年以内に消えるだろう”と発言している。こうした危機意識を醸成していることが、全社員を一つの心、一つの方向に向かわせている。
  • サムスンの活動を基準として、大方の日本企業を比較してみると、環境変化への組織対応力、スピード感をもって新製品を生み出すオープン・イノベーション、顧客重視などが徹底していることが分かる。だが、どれをとってもサムスンが特別ではなく、当たり前のことを実行しているだけである。
  • サムスン電子は、日本企業が過剰品質や生産性向上といった顧客には比較的目立たないところに注力しているのに対し、価格、品質、納期、デザイン、ブランドなど、顧客の目に触れるところに最大努力している。
  • サムスン電子が現在直面している最大の課題は、営業利益の七割前後をスマートフォンに依存しているという、一本足打法の危険である。