昨日、犯人が「日向亜紗子」であることに至ったプロセスです。解決編の前に書いときます。
前提としては以下の条件を置きました。
- 「登場人物の言動には基本的には嘘がない。嘘がある場合は、それを示す根拠が提示される。」
第一の犯行は、ベッドにメッセージを置くこと。第二の犯行は、立石一樹を殺害したこと。電話を不通にした件については考えません。
二つの犯行に共通することは15年前の事件の見立てであることです。よって、事件の詳細を知らない、この地区に無関係の第三者が犯人であるという可能性は消えます。
まず、第一の犯行を実行できた人物を考えます。犯人である人の条件は
1.花を集めることができる
2.メッセージを作ることができる
3.メッセージをベッド置くことができる
です。
あれだけの花があるのは岬の突端であり、そのことを知っている必要があります。そのため、記憶喪失であり、岬に花が咲いていることを知らない潮野卓也は除外されます。
メッセージを作成する材料としては雑誌または新聞であることが考えられます。このことからは誰も除外することができません。
メッセージを置くためには二階へ行く必要があることから、宗谷正太郎が除外されます。
次に第二の犯行について考えます。佐多医師による死亡推定時刻(6時から7時の間)は正しいものとします。
犯行現場が岬であると仮定すると正太郎により示されたアリバイの通り、犯人は潮野卓也になってしまいます。正太郎と都井のアリバイが曖昧ですが、これはテレビの音が聞こえることによって相互に立証しているとみなせます。テレビの音が正太郎に聞こえること、ビデオがないことは、「レッツ☆とぅないと」を見ているシーンで都井の「間に合った」という台詞と正太郎からの電話で示されています。しかし、第一と第二の犯行は同一人物ということ、見立てのための記憶を欠如していること、凶器の煉瓦についた血が包帯についていないこと、などから卓也は犯人から除外できます。
他殺との所見から立石の自殺ということもありません。正彦の犯行可能性については後で述べますが、正彦には犯行が不可能です。よって、犯行現場が岬であるという仮定が間違っているということになります。
卓也の靴跡の上に車椅子のタイヤ痕があること、裏口脇の階段の煉瓦がなくなっていることから、犯行現場は裏庭付近、凶器はその煉瓦であり、後から車椅子を利用して岬に移動したことが示唆されています。また、死後硬直の状態および白い布の高さの変化から、物置内引戸の奥のケースをとりだし、遺体を安楽椅子に置いたこともわかります。
さて、ここで改めて6時から7時までのアリバイと犯行可能性を確認すると、5時以降、6時20分から40分までを除いて、裏庭では都井が作業しています。したがって、都井以外が犯人の場合はこの20分間に裏庭で1人になることができる必要があります。このことから佐多医師と室戸は除外されます。一方、都井が犯人の場合は任意の時刻に犯行可能です。
ここまでで、犯人の可能性か残されているのは、泰江、都井、亜紗子、真紀、エリ、となります。
さて、ここで犯人の視点に立ってみます。立石が宗谷家の庭に来ることは予定外の行動であるため、突発的な犯行であることが伺えます。そのため、とりあえず一時的に死体を隠すことを考えます。隠せる場所としては、付近には物置か車しかありません。しかし、結果として犯人は物置を選びました。通常であれば物置に入れるだけで十分です。普段物置に入る可能性があるのは都井または亜紗子だけであり、それもごくたまにであることが最初の物置のシーンで示されています。しかし、犯人はわざわざ引戸の奥に死体を隠しました。つまり、犯人はそここそが自分が利用可能(車は利用できない→都井ではない)かつ唯一の安全な隠し場所であることを知っていたということになります。なぜならば、卓也が物置にストーブを取りにくるのを知っていたからです。6時以前に、卓也が物置にストーブを取りに行くことを知っていたのは、正太郎、亜紗子、真紀の3人だけです。したがって、犯人は亜紗子か真紀に絞られます。
真紀が犯人の場合、後から卓也が来ることが分かっている物置に隠すということを考えません。そのため、隠し場所がなくて手詰まりになります。仮に、一時的に偶然物置の引戸の中に隠すことを考えたとしても、その後、岬まで移動させなければなりません。帰りは都井が玄関先にいたため、自宅に帰ることを余儀なくされています。この後、誰にも気づかれずに作業を行うことは、不可能ではありませんが限りなく困難です。
一方、亜紗子は卓也が物置に行くことを知っていますが、引戸の中に死体を隠せるスペースを作れることと、そこが安全であることを知っています。なぜなら、彼女は物置内の状態を把握しており、ストーブがすぐに目につく場所においてあることも知っているからです。また、岬への移動も最短の30分で処理することができ、宗谷家内にいて移動の機会を伺うことができます。
よって、犯人は日向亜紗子であるということになります。彼女が犯人であることを補強するものとして、第一の犯行を行うために、不確定な卓也の動向を把握できること(昼食を用意するのは彼女である)、メッセージの作成に使用されたと思われる新聞の束を処理していること、通常であれば後片付けが終わっていると思われる時刻に洗いものが残っていること、などがあげられます。
さて、正彦が犯人ではない理由ですが、それはトンネルは未開通であるからです。作中、2007年ではなく2008年である可能性が示唆されますが、2008年でも未開通であることが分かります。一つはトンネル工事の5月分の請求書があること。そして決定的なのは、冒頭、卓也が発見された道を佐多医師が通勤に使用しているということです。トンネルが開通しているのであれば、時間がかかる山道ではなくトンネルを利用しているはずです。
途中、犯人目線になるのがいまひとつエレガントさに欠けるような気がしますが、そうしないと絞り込む条件がでてこなくて。後は、犯行時間に余裕があるのは真紀の方なんだよなぁ。亜紗子の場合、5分間で犯行を実行しないといけない。