GUST NOTCH? DIARY

「10人の泥棒たち」の興行形態にはどういう意味があるのか考えてみた

先週、さて今日は何を見ようかと思って上映中の作品を探していたら、「韓国の映画動員数を6年ぶりに更新」という宣伝文句がありました。作品情報を見てみたら、なかなかの豪華キャストのエンターテイメントの模様。最近の韓国映画は戦争ものかラブコメかって感じであまり食指が動かなかったのですが、久しぶりに見てみようかと思いました。
ところが、この作品、一律1800円という設定になっていました。なんで3Dでもない普通の韓国映画が一律料金設定なんだ?と思って調べてみたところ、2週間限定上映、一律1800円ということらしい。そして、チケットは6月1日から全上映回のチケットを前売りしていた模様。配給は「ライブビューイングジャパン」。普段はコンサートやスポーツを映画館で中継上映するコンテンツを扱っているところ。
ここで「ライブビューイング」についておさらいしておきましょう。詳しい説明は

などを見てもらうとして、ライブビューイングは

  • イベントの興行主は、主会場以外からも収入を得られるので嬉しい
  • お客にとっては、チケットを取れなかったけど安くリアルタイムで見れるので嬉しい
  • 映画館にとっては、普通の映画よりも客単価が高くて嬉しい

という、皆が嬉しい構造になっています。
普通の映画の場合、映画館が入場料金の約半分を取ります。ライブビューイングの場合はどうなっているのかと思っていたのですが、このシステムは同じのようです。

たとえば8月に行われるももクロのライブのチケットは会場が日産スタジアムで8900円です。7万人収容ですが、プレミアムチケットになることは必至でしょう。チケットが取れない場合、ライブビューイングなら3500円で、しかも全国に中継されます。コンサートではもともとサービス映像を撮影していますし、デジタル伝送ですので、それほどコストが増えることなくさらにお客を入れることができるわけです。そして、映画館にとっては通常の映画1800円の倍の収入が得られます。
今回、「ライブビューイングジャパン」は、初めて一般の映画作品を配給したようです。ではなぜ2週間限定一律料金なのか?作品にプレミア感をつけることによって普通の作品じゃないんだぞ!という強気の姿勢なわけです。会長がインタビューで「奇をてらった」「強気の姿勢」と言っています。

この言葉をそのまま信じるのは野暮というもので、おそらく、客単価を上げることと、できるだけ空席をつくらないことを目的とした試みだったのではないかと推測します。通常1200円程度の客単価を1800円にあげ、2週間限定にすることとチケットの販売期間を長くとることで、出来るだけ上映回ごとの空席を減らす、ということが目的だったのではないでしょうか?つまり、他のコンサート中継と同様の方法を持ち込んだ、ということです。実際、通常の映画作品でも、舞台挨拶つき上映のチケットは指定前売りでプレイガイドでも販売されますので、それを通常上映にも適用してみた、というところでしょうか?HPの文句を借りると「コンサートや演劇を観るように映画を見る」だそうです。
しかし、結果の方は散々な状況のようです。
そもそも作品に対するプレミア感がありません。韓国押しのアミューズ系列としてはイケるという判断をしたのかもしれませんが、どうもいろいろとズレているところが多い。

  • まず一律料金1800円が高く感じられる。今、高校生1000円と言ってるところに2倍近い料金は出さないと思う。それに、上映期間中に映画サービスデー(1000円で見れる)を挟むスケジューリングもよく分からない。マスコミだけの韓国ブームを過信し過ぎではないか?というか自分たちがブームを演出しているのか。
  • 豪華声優陣による吹き替え版を作成し、字幕版よりも吹き替え版の上映を多くしている。しかし、3カ国語がチャンポンで話される面白さを全部日本語にしてしまうのはどうなんだろう
  • 話題性を高めるためにいろいろやっているが、広告は打たずにクチコミでの効果を狙っている。クチコミを狙うなら徐々に動員が増えることになるはずなのに2週間限定。話題になる前に終わってしまう。
  • 早い時期からチケットを販売しているために、2週間分のスクリーンを押さえてしまっているので劇場の変更などが効かない。通常ならば話題作は大きな劇場に切り替えるなどが可能だが、そういうことができない。

などなど。
先週半ばから各劇場の予約状況をチェックしてみていたのですが、完売していた回は土曜の六本木の昼の回のみ。初日の舞台挨拶は入っていたと思いますが、それ以外は渋谷でもガラガラ。早くからチケットを売っている意味がまったくないという状況のようです。普通の作品と同様、3日くらい前からの予約でも全然余裕。地方の劇場の昼の回なんて、上映1時間前で誰も買っていないというのもありました。
映画にこういうシステムを持ち込むのは失敗ですね。普通に上映していれば結構な話題作になったかもしれないものを。
今回の舞台挨拶でもやっていたようですが、舞台挨拶をライブ中継するというのはアリかもしれません。が、それに対して値段を上げるのも違うと思うので、素直に映画は映画として扱ってください。ライブビューイングは「元」があるから映画館での中継が商売として成り立っているのですから。
(2013-07-07追記)
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて一週間追加上映ということになったようです。スクリーンも開始時間も統一されておらずバラバラのようですから、普通の作品扱いなのですが、1800円なのは相変わらず。しかも、吹き替え版をプッシュしていたにもかかわらず、追加分は字幕版のみのようです。いろいろとブレていますね。